…のかもしれない。
データによる最適化の限界
僕はかなりの理系脳で、データ見て何かを意思決定したりすることが好きで、それが強みだとも思っています。
データを見ていると、大量に「非効率なもの」が見えてきて、それを最適化すると、物事がうまくいくのが楽しいです。
しかし、データを使ってサービスを伸ばすというのは、うまくいくことは多いけど、大ジャンプできないという感覚もあります。
最適化で、100万円の売上を110万円にすることはできるけど、500万円に押し上げることはできない、という感覚です。
ロジカルでなくても人を惹きつけるマーケティング
この本に、まさにそのようなことが書かれていました。
たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング
マーケティング戦略がどんなに論理的で洗練されているように見えても、蓋を開けてみれば成功しないのです。一方、ロジックが弱く説得性に欠けていても、人を引きつける”何か”があると感じられる場面は、大きな成功に繋がりました。(p.24)
データを元に論理的に考えても大きな成功ができない理由を考えてみたら、「平均化されたものを見ているから」と気づきました。
データ分析をするとき、サンプル数Nは多いほうが良いと考えられています。サンプル数を多くするほど、「たまたま」がなくなるからです。
でも、人の心を動かすものは、「たまたま」のところにあるのかもしれません。
1000人に喜ばれるプレゼントと、たった1人に喜ばれるプレゼント
マーケティングにおいて「アイデア」を考えるときは、ターゲットをたった1人に絞り込んで、深掘りしたほうが良い、と書かれています。これをN1分析と呼んでいます。
- 1000人に喜ばれるクリスマスプレゼントを選ぶ
- 恋人1人のクリスマスプレゼントを選ぶ
どちらかが、より魅力的なプレゼントを選べるかといえば、たった1人を絞り込んで考えた場合です。
1000人に喜ばれるクリスマスプレゼントを選ぼうと思うと、平均化されていて無難なプレゼントになってしまいます。
「マーケティングは、最初に違いを打ち出した人の勝ち」でも書きましたが、マーケティングでは、明確な違いのない無難なものは、魅力的には見えません。
データを使うことを否定しているわけではない
このように書くと、感覚的な意思決定が多くて、ギャンプルのように思いますが、違います。
このようにして生み出したアイデアを候補として、それを定量調査して、実際に何を実行するかを決めます。
- ロジカルなやり方: データ → 仮説 → 実行
- N1分析: ヒアリング → 仮説 → データで検証 → 実行
顧客理解を深めてアイデアを出す部分までは感性的におこない、それをデータを使って検証するこことで、確率高く尖ったマーケティングができる、ということです。
感性と論理の使い分けや、感覚的なアプローチを論理的に説明していて、面白い本でした。
その他メモ
- 顧客を把握しないマーケティングは、部分最適の連続から縮小均衡に陥る (p.24)
- アイデアは独自性と便益を兼ねたもの(p.30)
- 独自性があるが便益がないものはギミック(p.31)
- プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアがある(p.33)
- コミュニケーションアイデアの便益は、広告に接触することが楽しい、など(p.37)
- プロダクトアイデアが後発でも認知形成で勝つ例が多い(p.42)
- ABテストで売上が上がっても、その理由である心の変化を理解しないと、再現性、拡張性がない(p.75)
- いつどのようなきっかけで、知ったか、買ったか、ロイヤル化したか(p.77)
- ロクシタンは、ギフトが初回購入機会になる。スキンケアのサンプルがロイヤル化のきっかけになる(p.78)
- 初回購入とロイヤル化の理由は違う(p.82)
- 実在しない顧客のカスタマージャーニーは無効(p.83)
- 貨幣的価値提供の販促活動は、購入・ロイヤル化への移動は早いが、ブランド選好が減る(p.135)
- 好き嫌いやイメージ属性と、購買意向は必ずしも相関しない(p.140)
- ブランディングは計測可能、投資対象として科学的に議論する(p.147)
- その人が、どの顧客セグメントに属するか確認。そこまでの認知、使用体験に至ったきっかけや理由を聞きながら、カスタマージャーニーを理解する(p.170)
- 失敗要因は、N1が絞りきれず誰にも響かない、プロダクトアイデアが揺らいでしまう、コミュニケーションアイデアに落とし込めない(p.197)
- マーケティング理論と量的データ分析を追求して戦略を構築したものの失敗、データやロジックでの組み立てをやめて成功した経験(p.229)